―弐―

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『母様っ!』 春。鶯が鳴くことを躊躇うような微かに肌寒い季節。 まるでその轟々たる権力を主張しているかのように見事な屋敷。 まだ少女であろう可愛らしい声が響き渡っていた。 『これ、大姫! 女子がそのようにドタバタと走るんじゃありませんよ!』 政子―。源頼朝の妻であり、大姫と呼ばれた女の子の母親である。まだ若々しさが残る美しい女性だ。 賢そうな顔で苦笑しつつ大姫に語りかける。 『どうしたのです?そのように慌てて…』 軽く息切れをしていたので一呼吸置いてから、少し乱れた煌びやかな着物の裾を直すふりをしつつ、大姫と呼ばれた少女は話し出す。 『母親、今日のいつ頃、…いつ頃に姫の「いいなずけ様」が参られるのですか? 父様がおめかししておくようにと言っていましたが、姫は疲れてしまいました。』 可愛らしい声の持ち主。 綺麗な黒髪、雪のように白い肌、ほんのりと桃色の頬と唇。黒々とした大きな瞳。 この美少女が頼朝と政子の愛娘、大姫であった。
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