9人が本棚に入れています
本棚に追加
土曜の朝は二人して寝坊する。ゆっくり眠れる唯一の日。日曜は家事の日って、同棲を始めた時に約束した。
いつも寝坊するのは私。
耳に心地良いバイオリンの旋律。眠い目をこすって起き出す。
「おはよ、ちさ」
「おはよー……ヴィバルディ?」
「うん、いいよね」
共通の趣味はクラシック。特に、管弦楽。
マグカップに濃い茶色の液体を注ぐと立ち上ぼる、香ばしいコーヒーの湯気。
流れているのは四季の第一楽章、春。
くつろいで目をつむるヒロ。その正面に座って、空を眺める。快晴だ。
青い空に白い雲、そこにカラスが落とす、黒のコントラスト。
「……やっぱりいいなぁ、四季」
呟くヒロに。
「うん」
相槌を打つ。
「弦楽器の重ね方、ほれぼれするよね」
「だねぇ……特にさ」
合唱にソプラノとメゾがあるように、ヴァイオリンにはファーストとセカンドがある。私は何の気無しに言った。
「セカンドの使い方、上手いよね」
「あぁ、分かる。主旋律に対して、絶妙な位置にあ……」
そこまで言ってヒロが黙った。
弦楽器の音が高らかに鳴り響く中、空でふっとぶつかる私達の視線。
瞬きを一回、二回。
微妙な間。
「……あるよね、セカンドが」
ふふふ。
私は笑った。ヒロも微笑む。
「ちさはこれから何したい?」「うーん」
外を眺めて、ヒロがぽつりと言う。
「今日晴れてるね」
「散歩行こうか」
椅子から立ち上がって、二人同時に大きく伸び。
ふぅ、目が覚めた。
「いいね、公園まで行こう」
最初のコメントを投稿しよう!