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白いシーツはしわしわ。シーツなのに柔らかくない。むしろ、硬い。ラブホのベッドの質なんて、どこもこんなもの。期待するだけ馬鹿みたい。
私はそんな質の悪いベッドの上で、大きく伸びをする。一汗かいた後って、どうにもだるい。
壁を一枚挟んですぐ隣りのバスルームからは、ひっきりなしにシャワーの音が聞こえて来る。時計を見ると午後五時半。そろそろ出なくちゃ、サービスタイムが終わっちゃう。
面倒臭いけどそうも言っていられないから、勢いをつけてベッドの上から床へとジャンプした。
どすん。音がする。
やだな、私太った。
脱ぎ捨ててあった黒いストッキングをはこうとしていたら、バスルームのドアの向こうから声がかかる。
「千佐都ちゃん、タオル取って」
入る前に用意しておけばよかったでしょ。
毎回そう思うけれど特に言う必要性も感じないから、言わない。
ドアを少しだけ開けて、狭い隙間からタオルを手渡した。
「ありがと、千佐都ちゃん」
バスタオルを軽く羽織った美華さんが、こちらへ歩いてきてベッドの上にぽんと座った。
茶色く染めた髪を拭く白い腕。ふわふわで触り心地はいいけど、肉は垂れ気味。お腹も少し、三段腹。ま、40代の人妻となればこんなもの。
それでも私は美華さんが好き。優しいし、大人で包容力がある。
「千佐都ちゃんは、いつもお風呂に入らないのね。こういうことの後にシャワーも浴びないで、気持ち悪くないの?」
私は困ったようにほほ笑む。こういう表情は得意だ。
「あまり。汗は、かかない性質なんで」
着替え終わった美華さんが、私の頭に手を当てて軽く撫でてくれた。
「そうね。さ、出ましょうか」
私の荷物はほんの少し。美華さんの荷物はもっと少し。
ばたんとドアが閉まる。オートロックのホテルのドアが。
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