phased-TRUTH

7/7
前へ
/7ページ
次へ
 土曜の朝は二人して寝坊する。ゆっくり眠れる唯一の日。日曜は家事の日って、同棲を始めた時に約束した。  いつも寝坊するのは私。  耳に心地良いバイオリンの旋律。眠い目をこすって起き出す。 「おはよ、ちさ」 「おはよー……ヴィバルディ?」 「うん、いいよね」  共通の趣味はクラシック。特に、管弦楽。  マグカップに濃い茶色の液体を注ぐと立ち上ぼる、香ばしいコーヒーの湯気。  流れているのは四季の第一楽章、春。  くつろいで目をつむるヒロ。その正面に座って、空を眺める。快晴だ。  青い空に白い雲、そこにカラスが落とす、黒のコントラスト。 「……やっぱりいいなぁ、四季」  呟くヒロに。 「うん」  相槌を打つ。 「弦楽器の重ね方、ほれぼれするよね」 「だねぇ……特にさ」  合唱にソプラノとメゾがあるように、ヴァイオリンにはファーストとセカンドがある。私は何の気無しに言った。 「セカンドの使い方、上手いよね」 「あぁ、分かる。主旋律に対して、絶妙な位置にあ……」  そこまで言ってヒロが黙った。  弦楽器の音が高らかに鳴り響く中、空でふっとぶつかる私達の視線。  瞬きを一回、二回。  微妙な間。 「……あるよね、セカンドが」  ふふふ。  私は笑った。ヒロも微笑む。 「ちさはこれから何したい?」「うーん」  外を眺めて、ヒロがぽつりと言う。 「今日晴れてるね」 「散歩行こうか」  椅子から立ち上がって、二人同時に大きく伸び。  ふぅ、目が覚めた。 「いいね、公園まで行こう」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加