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なるほど。旅行かぁ。
「だからまぁ、今言ったように、地理が嫌っていう人は、発想を変えてみたら、嫌っていう感じは、少なくなるんじゃないかなぁ」
発想…。
「“勉強”っていう感覚よりも、『いつか旅行に行くときのために、いろいろ調べてるんだ』、みたいな感覚で。中学で習うことって、ホント、大人になっても役にたつこと多いしね。たくさん覚えて、絶対損はない」
そうなの?でもなぁ…。
「たとえば、理科」
理科?あんた、社会でしょって。
水沢はスタスタと黒板に向かいながら、
「たとえば、気象。気象って、天気のことね。みんなは、まだ習ってないかなぁ。2年の、2学期ぐらいかな。ねぇ度会さん」
私?
「あ、あぁ、うん…」
「たとえば、新聞とか、テレビの天気予報でね、…こういう、」
水沢は黒板に、黄色のチョークで日本地図を、白のチョークで等圧線を、赤で“低”、青で“高”、と書いた。
「こういうの、見たことあると思うけど、見たことない人、いる?」
水沢の問いかけに、今回はみんな、誰も手をあげない。
「うん。みんな1度は、見たことあるよね。これもねぇ、中学で習うよ?だからー、これを見ただけで、だいたいわかる。『雨が降るかもなー』、とか、『気温が下がりそう』、とか、『風が強いなー』、とかね」
こいつの授業、おもしろいかも。
「よしじゃあ、いろいろ時間たったし、みんなで1問ずつ、おさらいしよっか」
「え、先生、テストは?」
誰かがやっぱり、ちょっと当然の質問。
「だって…。お客さんが来ちゃったんだもん」
水沢はなんだか、なにげにかわい子ぶって言った。
「あ…。ごめん。帰る」
由香はなんだか、珍しく低姿勢。
「いやいや、いていいよ?ペン、貸すし」
えっ…?いて、いいの?
「度会さんも、一緒におさらいしましょう。はい、ペン」
「…」
由香は微かにとまどいながらも、なにやら控えめにペンを受け取ると、ほんの少しだけ笑顔になった。
「おい!なにしよるんか!邪魔するな!自分のクラスに戻れ!」
由香の後ろから突然響いた、とっても大きな怒鳴り声。3年の学年主任、数学の工藤だ。
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