5人が本棚に入れています
本棚に追加
「邪魔してないし!」
「来い、授業に迷惑かけるな」
「迷惑かけてないっ。『いていい』って言われたもん」
「それは水崎先生のリップ・サービスだろうが。そのくらいわかれ」
「えっ?」
…。そっか…。リップ・サービスなんだ…。ほんとの意味で、『いていい』って言ってくれたんだと思った。ていうか、
「ていうか、水崎なんだ。水沢だと思ってた。あははははっ」
「来い。おまえは2年じゃないだろうが。すみませんねぇ水崎先生」
「いえいえ、協力してくれてました。度会さんは」
「ほらー」
「いいから来い。2年に、悪影響だ」
「待って、ペン、」
由香は腕を引かれながら、グラウンドの方、つまり3年の校舎の方へ。
「もうっ、わかった!行くって!行くから離してっ!」
「大変だ大変だ」
小走りで、教務主任の安田まで現われた。
「はいはいはいはい。行こう行こう。度会さんは、3年、2組だったかな」
「キモイし!なんで2人も来るの?意味不明!」
「おまえがフラフラしてるからだろうが」
「関係ないし。ていうか、先生たち授業ないの?」
「あったらこんなところにおるわけないだろう」
「そういう度会さんは授業ないんですかー」
安田のトーク、ねちっこいから嫌い。
「もう終わった」
「うそー。まだ30分ありますが」
「ていうか、おさらいが、」
由香はまた、ゆらりと水崎のクラスの方へ。
「おまえはそっちじゃない!」
「3年じゃなかった?度会さんは」
「今からおさらいするのっ。ちょっと、水沢!なにか言って!ねぇ」
「水崎です」
「そっか、あはっ。ごめん。はい、ペン」
由香はにっこり笑うと、くるりと背中を向けて、もう今度はまっすぐ、素直に3年の校舎へ。
「すみませんね水崎先生」
「いえいえ、ちゃんと、そこそこいい先輩でしたよ。ねぇみんな」
そんな水崎のセリフが、微かに由香の耳にも届いた。由香は隣りの校舎に入る前、最後にもう一度だけ、水崎がいるクラスの窓に振り向いた。水崎はもう窓のところにはいなかったけれど、由香はなんだか気持ち、少しだけ、小さく窓へと笑顔を飛ばした。
ていうか、“そこそこ”ってなに?キモイし。
.
最初のコメントを投稿しよう!