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「ていうか、水崎先生に聞いてみたら?せっかく、仲良くなったんだしさぁ」
和久井。私この女マジ無理。
すると竹富が、
「あぁ、水崎先生、ちょうどよかった。地理と歴史、教科書あまってないですか」
えっ。来た?
由香は横目で、チラリと半分だけ振り向いた。
「確か、なかったと思いますけど、どうか、されたんですか?」
「じゃあ、ありがとうございます」
由香は竹富に借りた教科書を胸に抱いて、水崎と顔を合わさないように、なんだかカニみたいな横歩きをしてその場から逃げていく。
「え?もしかして、度会さんが、教科書探してるんですか?」
「あぁ、そっか!度会さんは、水崎先生にもらった、プリントをするためにー、社会の教科書探してるんじゃないですか?」
和久井、おまえの車、絶対傷つけてやるから。
由香は和久井も水崎も無視して、スタスタと保健室に戻った。
目覚めないってバーカ。ていうか、いちいちウザイ。
「あれ?由香ちゃん、勉強?」
保健室の樫田先生。聞いたことないけど、たぶん、けっこう若い。
「勉強っていうか、おさらい」
「へー、地理かぁ。私、地理は苦手だったなぁ」
「地理なんて、旅行に行くと思ったらいいんだよ」
「あー、なるほどー。もしかして、由香ちゃん、地理に目覚めたの?」
えっ?
「いや?別に?」
「前、地理嫌いだって、言ってなかったっけ」
保健室の樫田先生は、由香のことをちょくちょく知っていたりする。保健室の先生って、ほかの先生たちよりも、なんだか話しやすかったりするから。
保健室には由香のほかに、2年の女子が2人。いわゆる、“保健室登校”ってやつ。だけどこの2人は、由香とは少し、毛色がちがう。簡単に説明してしまうなら、由香が陽なら、2人は陰だ。2人とも去年の夏ごろから保健室登校で、由香が教室から出歩くようになったのも同じころからだったから、面識としては、けっこう長い。だけど由香は、割と普通に、2人のことを毛嫌いしていた。
だって、話しかけても、反応がないんだもん。
由香がいるときは、2人は決して、樫田先生とも話さない。だから保健室でのトークは、ほとんどが由香の独壇場。だけど今日の由香はいつもと違って、黙ってひたすらテンポよく、せっせと食器を空にしていく。
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