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放課後になって、もっと傾き始めた陽射し。由香はこの時間はいつでも、わけもなく学校内をぶらぶら。
実は学校、嫌いってわけでもないのかもしれない。オレンジ色が校舎を染めれば、グラウンドの脇の石段に座って、ちょっと見とれていたいかも。
テスト、どうやって渡そっかなぁ…。
サッカー部と野球部と、陸上部をぼんやり見守りながら、由香はテストのことばかりを思っていた。
新曲の練習だろうか。ブラバンの音色が、今日はやけにぐらぐら。
ちょっと早いけど、帰ろっかなぁ…。
ふっとテニス部の方に目をやると、
わ…。
水崎だ。男子にサーブを伝授している。
テニス部なんだ。そういえば、そうだったっけ。
そのまま由香は、なんだかずっと、ただ遠く水崎に見とれていた。別に、“好き”とか、そういう感情じゃない。まだきっと、そういう感情ではない。
テスト、渡そっかなぁ…。一応、やったから。でも、部活中に渡されたら、迷惑だよね。
由香は“ふぅーっ…”、っと大きなため息をついた。
やっぱり、こんなの、捨てようかなぁ…。
由香が小さく迷っていると、ポケットの携帯が静かに震えた。“仕事”のメールだ。
帰らなきゃ…。
由香は最後に、もう一度だけ、チラリと水崎の方を見た。
気づいてよ。ばーか。
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