5人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
水沢をはじめ、教室中がみんな、いっせいに窓の方を見た。
えっ…。わっ…。照れる…。
3年の由香の参入に、教室の空気が、一気に張りつめた。やっぱり、2年にとって、3年は怖い存在。特に窓際の女子なんて、決して由香と目を合わさないように、キッチリ顔を下に向けている。
私、なんか、嫌がられてる?な、なによ。なんか、文句あるの?
すると水沢が、レストランみたいなスマイルで、
「いらっしゃいませ」
キレイな角度でおじぎした。
相手が3年生だから、2年はみんな、ほとんど全く笑わない。
えぇっ?あはっ。私って、お客様?
水沢の意外な返しに、由香は内心、微妙に戸惑っていた。それでも由香は、全く平然とした顔で、
「なんか、そこで寝てたら、聞こえてきたから」
「メニューいる?」
「あ、一応」
“メニュー”イコール、“テスト用紙”だ。
「ご注文は」
「えー…っと、じゃあ、28番」
余裕なのは、由香と水沢だけ。2年は全員、なんだか特有の緊張感。うっすらピリピリ重ーい空気が、窓の外まで伝わってくる。
「28番。かしこまりました。えーっと、『この地方の、火山灰が積もってできた土地をなんと呼んでいますか』」
うん。なんて呼んでいますか。
水沢。
「…」
私。
「…」
2年。
「…」
私。
「…」
あれっ?2年、誰か早く答えてよ。
「…」
教室中はみんな、探るみたいに由香を見ている。
えっ?
「えっ?もしかして、答えるのって、私?」
由香はきょとんと自分を指差した。
「うん。だって、注文したじゃん」
「ていうか、私関係ないし。だいたい、地理嫌いだもん」
「あぁ、度会さん、地理嫌い?」
「うん。嫌いだよあんなの」
「あんなのって、どこが嫌い?」
「うっとうしいじゃん。どうでも良さそうなことばっかり」
ていうか、私の名前、知ってんだ。まぁ、問題児だからね。この学校の先生なら、知ってて当然か。
「みんなはどう?地理が、嫌いな人。または、苦手な人。手を、挙げてみて?」
一人、二人、三人、そしてなだれ込むように一気に手が挙がる。
「けっこういるねぇ」
「ほらー」
由香は窓から身を乗り出して、両手を垂らして壁をペタペタ。それにしてもさっきから、すぐそばの席の女子は本当に気の毒だ。だって見るからにやさぐれた感じの先輩が、こんなにも近くでゆらゆら。
最初のコメントを投稿しよう!