9234人が本棚に入れています
本棚に追加
街は、また一歩、冬に近づいていた。
広瀬さんとの付き合いも、今までと特に変わらないままのデートが続いていた。
お互い距離を近づけようとも離そうともしない、不思議な距離感。
私はいつの間にかその距離感に慣れてしまい、安心感さえ覚えるようになっていた。
そんなある日、私が少し早いお昼を取って店に戻ろうとすると、店の中の様子を探っているような挙動不審の人影に気付いた。
その人影は何かを確認したらしく、店に入ろうとした。
「八代?」
「わ!た、たか子さん!?」
「な、なによ?」
八代のあまりの慌てぶりに、私まで動揺してしまった。
「あ!」
私はふと気付いた。
「ええ!?」
さらに動揺する八代。
「あんた、最近、会わないと思ってたら、私のいない時を確認して来てたのね?」
「い、いえ!そんなことは……」
どぎまぎと答える八代だったが、
「そのとおり」
店の中から佐登美が出てきて言った。
「何?佐登美は知ってたの?」
「まあね。店の前なんだから二人とも入りなさいよ。」
「そうね」
私達は店の中に入った。
私と八代は応接のソファに座った。
佐登美はレジでパソコンをいじり始めた。
二人で話しなさいという暗黙の指示だった。
最初のコメントを投稿しよう!