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「八代、なんで私を避けたの?」
「あの、先生から聞いちゃったんです。たか子さん、他に付き合っている人がいるって」
「そっか……」
「本当ですか?私、先生とたか子さんがお似合いだと思ってたから、混乱しちゃって、どんな顔して会えばいいかわかんなくて……」
「そうだよね……ごめん。八代にも迷惑かけちゃったね」
「他に好きな人がいるって本当なんですか?」
「それは……私にもわからないの」
私は自分の気持ちをごまかす気はなかった。
「ただ、先生を失ったと思った瞬間、かけがえのないモノを無くしたと気付いたわ」
「だったら、もう一度、先生と…….」
「私がフラれたのよ」
私は、懇願するように言いかけた八代の言葉を遮った。
「先生はきっとたか子さんのことを忘れられないと思います」
八代がきっぱりと言った。
私は、今までよりもっと八代を身近に感じて、名字で呼ぶのは違う気がした。
「ありがとう。……美奈絵」
「あ、初めて名前で呼んでくれましたね」
美奈絵が嬉しそうな顔をした。
「そうだね」
私も微笑んだ。
「私、先生のこと大好きよ。それは本当の気持ちだわ」
私は自分の心をゆっくり、確かめるように、言った。
「じゃあ…….」
「時間が必要だと思う。私も先生も。そして今、付き合っている人も……」
「そうですか……」
美奈絵は言葉を飲み込むように言った。
そして少し間を開けると、何かを決意した様な顔で言った。
「わかりました」
「え?あんた、何かするつもり?」
「いえ。お二人をずっと見守ろうと思っただけです。私は先生の助手ですし、たか子さんはお姉さんみたいなものだと思ってますから。お二人には幸せになってもらいたいだけです」
「ありがとう……」
涙がこぼれそうになったのを何とか我慢した。
「美奈絵、何か持っていっていいよ。私のおごり」
私は商品の方を見て言った。
「え!本当ですか?」
「うん」
美奈絵は1つ精油を持ってきて「じゃあ、これもらいますね」と言った。
「げ!」
美奈絵が持ってきたのはダマスクローズの5mlだった……
「だめですか?」
美奈絵はすっごくおねだりな顔をした。
「い、いいわよ。持っていきな……」
私は苦笑した。
美奈絵が、おねだり娘だったことを忘れていた。
「じゃあ、店長の支払いでつけておきますね」
後ろから佐登美が事務的に言った。
「はいはい」
私は、肩をすくめて手を広げたのだった。
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