第19章 イブと誕生日…再び

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部屋の明かりを付けずにカーテンを開け、夜景を見ていた。 瀬谷さんの部屋の前にどれくらい立ち尽くしていただろう。 ふと時計を見た。 まだ午後10時だった。 トントン…… その時、誰かがドアをノックした。 びっくりして振り返ったものの、しばらく動けなかった。 (瀬谷さん……?) そんな期待が一瞬心にふくらんだが、違ったらと思うとそこから突き落とされる感覚が迫って来そうで…… 「たか子ちゃん?帰ってるの?」 さゆりさんの声だった。 (やっぱり……) 心の中で何かが崩れた。 トントン…… また遠慮がちにされたノックに、気を取り直した。 「はい…….」 ドアを開けると、さゆりさんが心配そうな顔で立っていた。 「どうしたの?」 私が笑顔を作って言うと、さゆりさんは驚いたように言った。 「あら、だって、たか子ちゃんが連絡無しでご飯食べに来ないんだもの」 「あ……!」 そうだった。 瀬谷さんの部屋の明かりを見てレイチェル邸に寄らないまま帰ってきたのだった。 「大丈夫?明かりも付けないでどうしたの?」 「ごめんなさい。ちょっと考え事してたらそのまま……あ、ディナー残ってる?」 「あるわよ」 「じゃあ、今から行くわ」 私はとびっきりの笑顔を作って言った。 「そう?」 さゆりさんは戸惑いながらも笑ってくれた。 こんなことを続けていても周りの人に迷惑をかけてしまう。 自分の不甲斐なさに怒りが込み上げたが、どうしようもないこともわかっているのだった。  
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