第19章 イブと誕生日…再び

6/19

9231人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
お昼に、広瀬さんとよしおか珈琲で待ち合わせているので、佐登美に声をかけて出てきた。 気が付くと、街はすっかり冬になっていた。 ちらほらとクリスマスセールの文字が躍っている。 (30才も、もう終わりか……) クリスマスが来ると言うことは、そういうことだ。 今年のイブは、普通なら、広瀬さんと一緒に過ごすことになるだろう。 ただ、今の心境だと、素直にその日を過ごせるかは自信がない。 それに、今年は佐登美が久しぶりに一人のクリスマスだ。 それを理由にイブは佐登美と居た方がいいのだろうか。 本当は楽しいはずのクリスマスを、なんでこんなに悩まなければならないのだろう? 「自分のせいでしょ!」 自分でつっこんでみた。 虚しい…… よしおか珈琲が見えてきた時、ふと思った。 (そういえば、今日は何の話だろう?) 電話で約束した時に、何か言いたげな感じがあったのを思い出した。 「ごめん」 「はい?」 サンドイッチとブレンドを注文して馴染みの店員が去っていくと、広瀬さんが急に頭を下げた。 「実は……、うちは古くからイギリスの、とある貴族と親交があるんだけど、今度来日するんだ」 「ええ……」 「それがクリスマスイブからでね…….」 「はあ」 どうやら、イブ以降年末は会えそうにないとのことだった。 「いいですよ」 私は笑顔で言った。 「佐登美が今年は一人なので、一緒に過ごすことにしますから」 「そう?君の誕生日を祝ってあげられないのが申し訳なくてね」 広瀬さんは残念そうに言った。 「ありがとうございます。気にしないでください。もう30も過ぎたオンナの誕生日ですから」 「こらこら、君にそんな言葉は似合わないよ」 「えへ、すみません」 私達は吹き出した。 「はーい、お待たせしました。楽しそうですね」 丁度注文したものが運ばれてきた。 「さあ、食べようか」 「はい」 その話はそこで終わった。 本当は、私が、もう「婚約者」に昇格していれば、そのイブからの接待に同席したのだろう。 広瀬さんは、そうしたかったはずだ。 でも、それを理由に私を急かすことを避けてくれたのだ。 だから、あえて「会えない」ことを選んでくれた。 そのことがわかっているから、どうして彼を責めることができよう。 謝るのは、本当は私の方なのに。 笑顔と裏腹に申し訳ない気持ちで一杯だった。  
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9231人が本棚に入れています
本棚に追加