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カランとベルがなった。
「いらっしゃいませ」
振り返ると美奈絵だった。
「たか子さん、佐登美さん、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「今日は買い物?」
佐登美が聞いた。
「ええ。クリスマス近いですからぶらぶらとしてきました」
「そう。珈琲でも飲む?あなたが淹れたのほど美味しくないけど」
「はい!いただきまーす」
「じゃあ、待ってて」
私は奥に入って珈琲を3つ淹れて、ソファで待っている佐登美と美奈絵に渡した。
「先生は元気?」
佐登美が気を利かせて聞いてくれた。
「ええ。相変わらず研究一筋になってますが」
「そうなんだ」
私は会話に参加するために、軽い口調でそう言った。
「そういえば、先生はイブの日から、またアメリカに行くんですよ」
「そうなんだ」
今度は少し重い口調で言う羽目になった。
「イブにって言っても、あの二人にデートみたいなのはあり得ませんから。本当に二人の研究が大詰めみたいなんですよ」
美奈絵はフォローするように言った。
「いや、そんなこと全然考えてないから」
私は手を横にぱたぱたさせながら言った。
本当にそれは心配していない。
「そうですか?」
「うん」
私は首を縦に大きく振って答えた。
「そうですね。たか子さんは先生のことちゃんとわかってますよね……」
「そうね」
佐登美がお澄まし顔で言った。
何か言いたげだった。
「なによ」
「別に。どっちにしても今年は私と一緒ね」
佐登美は、本当は瀬谷さんとイブを過ごさせたかったみたいだ。
「何がですか?」
「あ、美奈絵ちゃんもどう?こいつのイブの誕生日祝い」
佐登美が私を小突きながら言った。
「痛ったー……」
「あ、いいですね。どうせ私も一人でしたから」
「なによ、どうせ私もって……」
私はちょっとふくれながら言った。
「研究のせいでキャサリンも来日しないから、結局、函館帰るのやめようかなぁと思っていたんです。両親も子離れしてませんしね」
「あっそう……」
人の話を聞いていない美奈絵だった。
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