第19章 イブと誕生日…再び

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夕方近く、紀子さんがアトリエから降りてきた。 「たか子ちゃーん、お誕生日おめでとう!」 「ありがとうございます」 私はとりあえずお澄まし顔でお辞儀をした。 「さて、今年のプレゼントだけど、ローズはもう必要ないよね?」 「いえ!必要です!」 私はびしっと言った。 「嘘おっしゃい!今夜は佐登美ちゃんも美奈絵ちゃんも一緒でしょ?」 「いえ、それでもダマスクローズが必要です!それも10ml!」 「却下よ!おほほほ」 高らかに笑い声を響き渡らせる紀子さんだった。 「で、何しに来たんですか?」 私は冷たい視線で言った。 「あら、たか子ちゃん、冷たい視線…私寂しい…」 悲劇のヒロインみたいに演技をして、とても楽しそうな紀子さんだった。 私は横を向いて遠い目をした。 佐登美は気付かないフリして商品を並べている。 「二人とも冷たいわね……」 紀子さんはちょっと悲しそうな顔をしてすねたが、小さい包みをポケットから出した。 「はい、これ」 「あ、ありがとうございます」 「本当にもうローズは必要ないかなと思ったのよ」 紀子さんは素直な笑顔で言った。 「……そうですね」 私も素直に答えた。 「開けてもいいですか?」 「どうぞ」 紀子さんは腕を組んで言った。 開けてみると、それはシルバーとゴールドの3つの部品が組み合わさって十字架になるペンダントだった。 「うわあ、素敵……」 紀子さんが手にとってつけてくれた。 「メリークリスマス」 紀子さんが耳元でそっと言った。 「ありがとうございます」 「今日はイブでもあるしね」 紀子さんがウィンクした。  
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