第19章 イブと誕生日…再び

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「……子!」 (え?) 「たか子!」 「あ……」 佐登美が私を抱きしめていた。 「あれ?私……」 「あんた気を失って倒れたのよ」 確かに、さっきまで座っていたテーブルの横の床だった。 「瀬谷さんに会った……」 「何言ってるのよ!まだ死んだって決まった訳じゃないでしょ!」 はっきりしかけた頭が、佐登美の言葉を聞いてまた真っ白になりかけた。 「美奈絵、どこで消息経ったの?」 佐登美は立ち尽くしている美奈絵に、私を抱いたまま聞いた。 「太平洋上って……」 泣きじゃくりながら美奈絵は答えた。 「乗客名簿に瀬谷さんの名前はあったの?」 「そこまでは……まだ……言ってなかったけど、確かに……先生が乗った便です」 「そっか……」 佐登美は私を見た。 「そうだ……空港行かなきゃ」 私が起き上がろうとすると、佐登美が支えてくれた。 「空港に行くわ。何かわかるかも……」 私はふらふらする足で階段を上った。 「私もついて行くから。美奈絵はここにいて」 「はい……」 気が付くと店内は静まりかえっていた。 手を強く握りしめたさゆりさんをマスターが抱き抱えて、二人でこっちを見ていた。 「たか子ちゃん、大丈夫よ」 さゆりさんがそう言ってくれたが、私は笑顔を作れなかった。 マスターはただ歯を食いしばっているように笑顔を作ろうとしていた。  
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