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そう言った後、その男性はこちらを見て話しかけてきた。
「オーナーの広瀬です。今後ともよろしくお願いいたします。今日は私から桐渕さんの店長就任のお祝いに、取って置きのワインをごちそういたしましょう」
「ありがとうございます」
こんな言い方をされた経験のない私は、戸惑いながらもお礼を言った。
「では、どうぞごゆっくり」
広瀬さんはウィンクをして去っていった。
その仕草に嫌みがないのが素敵な男性だった。
ただ私には、その嫌みのない仕草が女性との付き合いに慣れている感じがして、距離感を感じた。
でも、紀子さんもだけど、どうしてあんなに上手にウィンクができるのだろう?
私には無理だし、鏡で見たらきっと吹き出すだろうなあと思う。
「あら、たか子ちゃん、タイプ?」
紀子さんが何か勘違いして聞いてきた。
「い、いえ。そんな……ただ、よくあんな嫌みのない仕草ができるなって」
「そう?見た目より誠実な人よ。彼、ここ以外にも、もう1つレストランを経営しているの。まだ独身だし。今年40だったかな?年下じゃなければ私が……」
と、聞いてもいないことを話し出す紀子さん。
(独身?)
「紀子さん、まさか、彼に会わせるために連れてきたんじゃないでしょうね?」
私はちょっと抗議気味に言ったが、紀子さんは涼しい顔して言った。
「そういう訳じゃないけどね~。ここのローストビーフはおいしいわよぉ」
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