第2章 クリスマス~二つの出会い

22/29

9231人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
ローストビーフはすぐ横で好みの厚さに切ってくれる。 私は厚めを頼み、紀子さんは薄めを頼んだ。 厚みに関係なく3枚が皿に盛られ目の前にサービスされる。 これはお客には嬉しいサービスだろう。 ソースは2種類から選んでかけてもらえる。 私はグレービーソースを頼み、紀子さんはわさび醤油を頼んだ。 わさびはその場で擂って出汁醤油に合わせる凝りようだ。 頼んだ後、「好み」にレディとその他の差がまた出たような気がして少し自己嫌悪気味になったが、料理はとにかく美味しかった。 今日はそれでいいか…… デザートと食後の珈琲をいただいている時に、広瀬さんが顔を出した。 「いかがでしたか?」 広瀬さんは紀子さんに会釈した後、私に聞いてきた。 「とても美味しかったです。ローストビーフのお店なのに、それだけで終わらなくて、それにセンスもいいお料理ですね」 私は素直な感想を述べた。 「ありがとうございます」 軽く会釈するその仕草に、本当に嫌みがないなと感心する。 動きが洗練されているというのだろうか。 「でも、あんな高いワインをよろしいんですか?」 「ええ、あなたが紀子さんのお店の店長になるということと、昨日が誕生日だったとお聞きしたので、そのお祝いと。二つのお祝いと女性には丁度良い銘柄だと思いまして」 確かにシャトー・ムートン・ロートシルトは、ラベルに有名な画家の絵を使う洒落たところもあるワインで、女性向きの面もある。 でも、誕生日のことまで知っていたとなると、やっぱり紀子さんにハメられたかなと思う。 そのこと自体は嫌ではないが、男性を急に紹介されても戸惑う気持ちの方が大きかった。  
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9231人が本棚に入れています
本棚に追加