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「また、いつでもお越しください。山の上のホテルにも店がありますので、夜景が楽しみたい時はそちらもいいですよ」
彼は名刺を差し出しながら言った。
「広瀬優介さん?」
「はい。今後ともよろしくお願いします」
広瀬さんは「ごゆっくり」と会釈をしながら去っていった。
名刺をしまう時に裏に携帯番号が書かれているのに気付いた。
「あら、早速誘われたみたいね」
目ざとく気付いた紀子さんが言った。
「広瀬さんは、手が早いんですね」
「ううん。彼にしては珍しい行動と言えるかも」
「本当ですか?」
素敵な人だと確かに思った。
容姿も申し分ないと思う。
あの女性に慣れた雰囲気がなければだが。
「本当よ。彼はお店のことばかりだったから、今まで女性と付き合ったことなかったのよ。言い寄る女性は結構いたし、ご両親もよくお見合い話を持ってきたけど、みんな断っていたわ。お店が安定して、やっと自分のことを考え始めたみたいね。たか子ちゃんに目をつけるのは女性を選ぶセンスはいいと思うけど?」
(語るなー……)
「私なんかじゃ釣り合わないと思いますが……」
「たか子ちゃんはいいオンナだと思うわよ。あとはもうちょっと自分に自信を持てばね」
(確かに……)
私もそう思う。
広瀬さんは、紀子さんが言うならそういう人なんだろう。
本当に付き合ってみれば、そのとおりの人だとわかるのだろうけど、今は付き合い始める気持ちまで持って行けそうになかった。
彼の持つ雰囲気が私には合わない気がした。
それに直接そういう風に誘われた訳じゃないしと自分自身に言い聞かせた。
そこが、自分に自信を持てない悪いところだ。
もう少し、前向きになれたらいいのにと、珈琲を飲みながら思った。
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