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「今、なんて?」
「だから、あのビルの持ち主はわ・た・し」
自分を指さしながら紀子さんが言った。
「そ、そうだったんですか……」
言われてみれば、今まで大家らしき人に会ったことがなかったし、いろいろなトラブルには管理会社が対応してたから、紀子さん自身が大家だったとは思いもよらなかった。
セレブな人だとわかっていたけど、ビルまで持っていたなんて……。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、持ちビルはあそこだけですか?」
「ううん。そのブティックの移転先の元町のビルも。」
さらりと言ってのける紀子さん。
「ああ、そうなんですか」
やはり、私とはスケールが違う人だったんだと、あらためて思い知らされた。
「あ、でも、今住んでるところは父の名義よ」
にこっとして言う紀子さんだが、それはなんのフォローなんだろう?
余計に落ち込むんですけど。
くしゅんっ!
気が抜けた私は寒さを感じてくしゃみをした。
「やっぱ、クリスマスの夜は寒いわね。帰ろっか」
「はあい」
紀子さんにまたもや賛成。
階段を上り、道路沿いに停まっているタクシーをつかまえて帰路についた。
紀子さんは先に私を家まで送ってくれ、「メリークリスマス」と言いながらそのまま乗っていった。
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