第2章 クリスマス~二つの出会い

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「せっかくだ。珈琲でも飲んでくか?」 「え?」 意表をつかれたが、瀬谷さんがどんな生活をしてるのかちょっと気になった。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 ご招待を受けることにした。 一人暮らしの男性の部屋にこんな時間に入るのはなんだが、この人はそういうことにまるで関係なさそうなので、まあ良しとした。 中に入ると、意外と片付いていたのでびっくりした。 「どうぞ、そこにでも座ってて」 彼が示した方にはデザイナーズインテリアの部類の、ちょっと変わったソファがあった。 よく見ると、必要最低限の家具しかないが、どれも凝ったデザインの家具だった。 「趣味いいんですね……」 思わず口に出た。 「何がだい?」 家庭用エスプレッソマシーンでエスプレッソを淹れている彼が、こっちを見ないまま聞いた。 「家具ですよ」 「ああ、デザインは変わっているかもしれないが、機能に裏打ちされたデザインだ。僕はいわゆる機能美というやつが好きでね」 今度は蒸気でミルクを泡立てながら彼は言った。 「カフェラテですか?」 「もうこんな時間だし、寝る前にはこっちの方がいいだろう」 「そうですね」 カフェラテが大好きな私はちょっとヨロいてしまった。 しかも、わざわざエスプレッソマシーンで作ったカフェラテ…… さっきまで、なんだこの人はと思っていたが、なんとなく、こだわりとやさしさを持っていることがわかると見方が変わった。 (意外といい人かもしれない) カフェラテを飲んでいる間ずっと、瀬谷さんに人工知能がどうたらこうたら、自分の研究のことを聞かされた…… 前言撤回。 やっぱり、学者って人種は…… でも、 「人工の嗅覚をAIに組み込むというのは是非やってみたい研究だ。君のところの精油を時々買いに行くよ」 と言われた時は、なんとなく嬉しい気持ちがした。 売れることは良いことだ。  
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