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クリスマス以来、特に何事もなく、本年の営業最終日である30日を迎えた。
朝からお客の途切れを見計らって大掃除をした。
お昼過ぎ、棚の上の方の埃を取り終わって一息ついた時、紀子さんが言った。
「広瀬さんから何か連絡あった?」
「いえ、別に」
「あ、そう。たか子ちゃんは連絡してないよね?」
「はあ……紀子さんは、私がそんなことできる性格じゃないと知ってると思いますが」
「そうよねぇ……」と言った後、横を向いて口に手を当て、小さな声で「広瀬君詰めが甘い!」と、つぶやく紀子さん。
「あの、聞こえてますけど」
ちょっとジト目で見る私。
「あはははは」
紀子さんはわざとらしく笑った。
「それで、広瀬君のこと、どう?」
ついでだとばかりに紀子さんが聞いてきた。
「前にも言いましたけど、素敵な人だとは思いますよ。でも、私にはちょっと合わないんじゃないかと思うんですけど」
「広瀬君、ぴーんち!」
また、横を向いて小さな声で言う紀子さん。
「だから、聞こえてますって」
広瀬さんから何か頼まれているのだろうか?
それとも、個人的にくっつけたいのだろうか?
「第一、まだ一回しか会ってないし、ほとんど話もしてないんですよ」と、私が言うと、
「そうよねぇ」と言いながら、紀子さんは、なんか悪巧みを思いついた魔女のような表情になった。
そしてさらに、
「じゃあ、お昼に行ってくるわね」と、言うとさっさと出掛けてしまった。
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