9233人が本棚に入れています
本棚に追加
広瀬さんは話が上手だった。
流れるように会話が続き、お互いの好きなことまで話は及んだ。
特に私が昔から好きで、今はほとんど活動していない「宮里祥子」の話の時は、彼女がどんなに声が素敵でその曲の世界観が心を打つかと、つい語ってしまったが、彼はちゃんと心をそこに置いて聞いてくれた。
気が付くとお昼休みは終わりだった。
「そろそろお店に戻らないと」
「そう。じゃあ、今度うちの山の店の方にどうかな?夜景が素晴らしいんだ。ご招待するよ」
「はい。いいですよ」
「年末はどうするの?」
「とりあえず、実家に戻ります。年に一度は顔出さないと」
「そっか。じゃあ、年明け早々にご招待するよ」
「はい。お願いします」
私は招待を素直に受けた。
今日話してみて初対面の時と印象が変わった。
無理に避けるべき人ではなかった。
やっぱり、やってみる前から面白くなさそうとか、趣味じゃないとか、そんな感覚は間違っているように思われた。
なんでもやってみないとわからない。
人も接してみないとわからないというのが真理なのだろう。
広瀬さんはここの支払いを出そうとしたが、それは断った。
甘える女性だと思われたくなかったからだ。
でも、そう思った自分に少し戸惑った。
店を出て気付いたが、広瀬さんは私の携帯番号とメールアドレスを聞かなかった。
普通なら、招待するという流れの段階で聞くのではないだろうか。
彼が引っ込み思案でないのは当然わかる。
だから、それは彼の誠実さの現れなのかもしれないと思った。
最初のコメントを投稿しよう!