第3章 いつもと違う年末

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店に戻ると、あえて何も言わずに普通に仕事をした。 後ろで紀子さんがそわそわしているのが雰囲気でわかった。 内緒で仕組んだ手前、聞きたいのに聞けないらしい。 私はそれに気付きつつもしばらくは掃除をしていた。 (ちょっといじわるかな?) 軽くため息を吐く。 「さっき、広瀬さんに会いましたよ」 紀子さんは待ってたとばかりに言った。 「えー!偶然ね~。どこで?」 「カフェ・デュモンドです」 「え?」 意表をつかれてきょとんとする紀子さん。 「嘘です。よしおか珈琲ですよ」 「あ、あらそう……」 珍しく紀子さんが動揺しているのが面白かった。 「紀子さん、広瀬さん呼んだでしょ?」 「あはははは。バレてた?」 「当たり前ですよ。何年一緒にいると思ってるんですか」 「まあ、バレるように仕向けてたんだから、気付いて当然よ」 (おっと、やばいやばい。攻めすぎると反撃が……) 「人で遊ばないでください」と、とりあえずかわしておいた。 「でもね、広瀬君、すぐにOKしたわ。やっぱり本気だと思うよ」 「いい人だと思いました。年明けに山の上の店に招待してくれるそうです」 「そう?それは良かったわ。あそこは夜景が素敵だし」 紀子さんは素直に喜んでいる。 私のことと、広瀬さんのことを心配してくれていたのだろう。 そんな紀子さんの気持ちに悪い気はしなかった。 (なるように、なるか) 何もない時間に乗っているより、何かが動き出した時間に乗って流されるのも悪くないと思った。 30才という節目を過ぎて少しずつ自分の中で何かが変わり始めているような気がした。  
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