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二人で並んでアパートに帰りながら、まだ心臓の鼓動は収まっていなかった。
無言で歩くのも余計にどぎまぎするので瀬谷さんに話しかけた。
「先生」
「ん?」
「先生は年末はご実家に帰るんですか?」
「君、その先生ってのは正確じゃないな。僕は君の先生じゃない。瀬谷で結構」
「あ、すみません」
「まあ、謝ることじゃない。僕は帰る実家はなくてね。ずっとアパートにいるが、それが何か?」
「あ、そうなんですか。変なこと聞いてすみません。」
「それも別に謝ることじゃない。自分で話したことだ。今の所は気に入っているよ」
瀬谷さんがそう言ったので、私は後ろを振り返った。
ちょっとした夜景が広がっている。
「そうですね。私もすごく気に入ってます」
「夜景が好きなのか?」
瀬谷さんも振り返って見ながら聞いた。
「ええ。この街の夜景は大好きです」
「そうか。奇遇だな」
彼はぼそっと言った。
その言葉にちょっと驚いたが、彼の心の中が見えた気がした。
「先生……いや瀬谷さんって、ロマンチストなところもあるんですね」
私は笑いながら言った。
「えっと、やっぱり先生にしてくれ。あらためて名前で呼ばれるのも何かしら違和感を感じる」
彼は少し照れている感じだった。
そんな会話をしながら、二人でゆっくりと坂道を登っていった。
アパートの前まで来ると、レイチェル邸は既に閉まっていた。
(そっか、もうそんな時間か)
2階に上がり、瀬谷さんにおやすみを言って自分の部屋に戻ろうとした時、彼が戸惑い気味に声をかけてきた。
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