第3章 いつもと違う年末

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「そうだなあ。彼は研究一筋の学者みたいだからなあ。」 マスターが腕組みしてアパートの方を見た。 「そうねえ。私もそう思うわ。恋とかに興味なさそうな学者さんだからねえ」 さゆりさんが顎に指を当てながら、やっぱりアパートの方を見た。 ほんと、お似合いの夫婦よね、と思いながらも、 「とりあえず、そういう関係じゃないから」 と、私は言った。 とっとと逃げ出すために、残りのショコラケーキを頬ばる。 「じゃあ、私行くね。買い物してこなくちゃ」 立ち上がろうとするとマスターが言った。 「もしかして、そば粉とか買いに行くのかい?」 「はい?」 言い当てられて動きが止まる私。 「だったら、うちのを分けてあげるよ。俺も今夜は蕎麦を打とうと思って買ってきてるんだ」 「わあ、ほんと?嬉しい!どこで買おうかと悩んでたの」 「ちゃんと、挽きたてを仕入れたから、美味いぞ。そうだ、当然打ち立ての方が美味しいから、夜、食べる前にうちにおいで。一緒に打てばいい」 「わお!そうします。じゃあ、9時頃にでもまた来るね」 「うふふ。二人とも楽しそうね」 そういうさゆりさんも楽しそうだった。
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