第3章 いつもと違う年末

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街でそば粉を探し回る手間が省けたので、時間が余ってしまった。 瀬谷さんは昼間は大学に行くと言っていた。 ほんとに研究以外に興味ないみたい。 私も卒業してもう7年だ。 新しい校舎や学部もできたみたいだし、すっかり変わっているかもしれない。 そう考えると、ちょっと見てみたくなった。 (そうだ。久しぶりに大学に行ってみるか) 思い立ったが、なんとやら。 レイチェル邸から出たその足で、坂の下のバス停から大学の前まで行くバスに乗った。 バスに乗るのも久しぶりだ。 大学時代は下宿したかったが、両親が許してくれなかった。 大学まで実家からバスで1時間近く揺られて毎日通った。 3年になったくらいからよく佐登美の部屋に泊まらせてもらうようになり、あとはそういうことにして彼の部屋に泊まることも多々あった。 でも、大部分はバスに揺られたことにかわりない。 いつも一緒のバスになった男子高校生からラブレターをもらったこともある。 年下は興味なかったので断った。 もちろん、その後彼は同じバスには乗ってこなくなった。 かわいそうなことをしたなと思いつつも、懐かしい思い出だ。 今だと2つの差は無いに等しい。 彼も素敵な男性になっているかもしれない。 バスに揺られて15分くらいで大学前に着いた。 まずは、正門が変わっていた。 前はまだ時代がかった煉瓦造りの柱が立っていたが、すっかり最近の無機質なデザインの正門だった。 また、正門から見える範囲の校舎は新しく建て替わっていた。 見た目を気にするのは私立だからこそだろう。 中に入ると、自分が通っていた頃の面影がすっかりなくなっていて、懐かしさより寂しい思いの方が強かった。 人通りはほとんどない。 大晦日だから当然だと思いつつも、一人で歩いていることが気持ちも寒くして、ちょっと人恋しくなった。 身体だけでも温めるかと、自販機で缶コーヒーを買ってベンチに座った。 しばらく手に持ってころころと回したり、左右に交互に投げたりしてぼんやりしていた時だった。 「あら、あなたは……」  
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