第3章 いつもと違う年末

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「はい、どうぞ!」 八代が珈琲を持ってきた。 「ありがと。いただきます」 一口飲むと、びっくりすることにすごく美味しかった。 「美味しい!」 「え?そ、そうですかぁ?」 八代が急に照れた笑顔になる。 「うん。なんで?普通こんな研究室の珈琲って作り置きでまずいもんじゃないの?」 「いえ、うちは先生がこだわってエスプレッソマシーン置いてるんです。それにだいぶ淹れ方も指導されましたから」 「いや、それだけでは美味しく淹れられないよ。八代さんが腕がいいんだね」 「えへへへ」 彼女は完全に照れてる。 「じゃあ、もしかしてカフェラテも淹れられるの?」 「ああ、八代君は淹れられるよ」 瀬谷さんがやっぱり普通の顔で自慢げ?に言った。 「じゃあ、お代わりにカフェラテもらっていいかな?」 最初の1杯をあっという間に飲んで私は言った。 「はい!先生もいります?」 「ああ、頼むよ」 「はい。わかりました」 そういうと、八代はニコニコと笑顔で奥に入っていった。 私も笑顔で彼女の背中を見送ると、瀬谷さんに向き直った。 「先生、いい娘じゃないですか。今度うちの店で何かプレゼントしてあげたらどうですか」 「なんで?」 きょとんとしている瀬谷さんだった。 (ああ、こういう人だった……) しばらくして八代がカフェラテを持ってきてくれた。 やっぱりすごく美味しかった。 彼女にこんな取り柄があるとは……ちょっと負けた感じがした。 そういえば、研究室に入っているくらいだから、頭もいいんだよね…… ふと、そのことに気付いて自己嫌悪に陥りかけたので、話題を振った。 「そういえば、先生、今何の研究をしているんですか?」 (あ……しまった……) 「今かい?」 瀬谷さんが答えようとすると八代が先に言おうとした。 「先生はこの間、えっと……」 「桐渕よ」 名前を聞いてなかったことに気付いたらしい。 「桐渕さんのお店で買った精油で研究しているの」 八代もカフェラテを飲みながら言った。 「そう。人は瞬時に何の匂いかわかるよね?それをAIにさせたくてね。精油の成分はわかったから、その成分の組成ですぐに判断できないかとちょっといろいろね」 「はあ……」 何となくはわかったが、実際にそれをやるには大変なんだろうなと思った。 思ったが、そのまましばらくその話を聞かされた…… (うう、アホだ私……)  
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