第3章 いつもと違う年末

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「もう少しって言ったじゃん……」 私はつぶやいた。 瀬谷さんのその台詞を聞いて既に2時間、もう午後6時だ。 とりあえず、いつも文庫本を持ち歩いているので時間は潰せたが、この背もたれのない丸椅子ではお尻が痛くなった。 隣の部屋ではひっきりなしにパソコンを打ち込んでいるキーの音が響いてくる。 「先生?」 声をかけてみた。 キーの打つ音がやむ。 「あ、ごめん。待たせていたんだったね」 瀬谷さんがひょいと顔をのぞかせながら言った。 「え?もしかして私のこと忘れてました?」 「あ、いや………すまない」 瀬谷さんはぺこりと頭を下げた。 本当に忘れていたみたいだ。 普通なら激怒するところだろうが、なぜか瀬谷さんならこれが当たり前に思えて起こる気がしなかった。 どうやら、彼に慣れてしまったみたいだ。 私が怒っても『なんでそんなに怒ってるんだい?』って普通の顔で言うんだろうなと想像したら、おかしくなって吹き出してしまった。 瀬谷さんがきょとんとしている。 「あとどれくらいですか?」 「あ、今度は本当にあと少し。さっきはちょっと別のこと思いついて変更した部分があって……」 「いいですよ。ちゃっちゃとやっちゃってください。待ってます」 私はにっこりして言うと、また文庫本に目を落とした。 「ありがとう」 彼は少し戸惑い気味に言うと顔を引っ込めた。 そしてさっきよりちょっと早めのキータッチの音が聞こえてきた。 (少しは気を使ってくれてるんだ……)  
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