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それからまた1時間待たされた……
「すまない。待たせたね」
ストーリーが佳境に入る頃、瀬谷さんが声をかけてきた。
「あ、終わりました?」
もうちょっと読みたかったが、ぱたんと文庫本を閉じて顔を上げた。
既に彼がいろんな機械の電源を落としたり帰り支度をしている。
窓から外を見るともう真っ暗で、前にも校舎があるから特に光も見えなかった。
「よく考えたら、今日はお店もやってないよね?」
「あ、そうですね……大晦日ですもんね」
どこに連れて行ってくれるか期待していたが、仕方ない。
「じゃあ、僕の手料理でいいかな?蕎麦は桐渕さんに任せてさ」
「え?先生、料理もできるんですか?」
「まあ、一人暮らしが長いからね。イタリアンでいいかな?」
「はい。大好きです」
また、ちょっと見直した。
瀬谷さんのことだ。
きっと料理もできるのならこだわって作るはずだ。
その美味しさを想像してお腹が鳴りかけた。
「では、帰ろう」
真っ暗になった研究室を後にした。
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