第3章 いつもと違う年末

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アパートに帰る前に、坂の下の年中無休のスーパーに寄った。 瀬谷さんは、意外とここを使っているらしく、必要なモノをすぐに見つけてかごに入れていき、買い物はものの10分で終わった。 学者って意外と何もできないイメージがあるが、彼の場合、こだわる性格がいろいろなことをこなせるようにしているのかもしれない。 アパートに戻ると、一旦自分の部屋に荷物を置いて、瀬谷さんの部屋に行った。 何か手伝おうと思ったが、「大丈夫。座って待ってて」と言われたので素直にソファに座って待った。 こだわる彼には、手伝いは逆に邪魔かもしれない。 30分もすると料理はできあがった。 生ハムのサラダにフレッシュトマトとルッコラのパスタ、そしてサルティンボッカだった。 飲み物はもちろん、イタリアワイン。 「さあ、温かいうちに食べて。冷めると美味くない」 彼に促されて一気に飲んで食べた。 (美味い!美味すぎる……) 心の中で泣きながら食べた。 やはり、彼は料理も最高だった。 お腹が空いていることを差し引いても、美味しい料理だった。 お店で出しても通用する。 いや、行列ができてもおかしくないくらいだと思う。 イタリアンはレシピにすると簡単に終わってしまう料理が多いが、実は部分部分で絶対に手を抜いてはいけない大事なところがたくさんある。 瀬谷さんには、きっとその大事な部分がわかっているはずだ。 それを確信できる料理だった。 そして、もちろん、食後は彼の淹れたカフェラテだった。 (わん!) 料理は一気に食べたので、これでやっと一息ついた。 時計を見るとまだ午後8時半になっていない。 レイチェル邸に行くまでまだ時間があった。  
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