第3章 いつもと違う年末

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「そういえば、瀬谷さんって下のお名前はなんて言うんですか?」 ふと思いついて聞いてみた。 「阿綱だ」 「え?」 「あ・づ・な。阿寒湖の阿に綱引きの綱だ」 「えっと、変わったお名前ですね……」 「そう言われるのは慣れている。そして、次に『どういう由来』なのかと聞かれるのもね」 「あ、はい。じゃあ、それを」 「由来は知らない」 「はい?」 「物心つく前に両親が交通事故で死んで由来を聞く暇がなかった」 「あ、そうだったんですか……すみません、変なこと聞いて」 そういえば、帰る実家がないと言っていた。 「謝ることじゃない。名前のことを聞くのは普通の会話だ」 あまり気にしていない感じだが、本心はどうなのだろう? そんなに早く両親を亡くしてどんな風に生きてきたんだろう? いろいろ聞きたいと思ったが、口には出せなかった。 聞けば、あっさり答えてくれそうな気がしたが、そんな瀬谷さんに甘えて踏み込んではいけない部分もあると思った。 「僕を育ててくれた叔父が以前言っていたが、どうやら語感の問題らしい」 「え?」 (そっか、叔父さんに育てられたんだ) 「だから、せやあづなという語感に漢字を当てたと父が言っていたらしい」 「身も蓋もありませんね」 「ひどいな。僕は気に入っている名前なんだが」 「は?」 (やっぱり、話している表情どおりで取るといけないんだ……どこに気に入ってるという雰囲気出してたのよぉ) 理解したつもりは甘かった。 反省…… まあ、本気で気にしてる様ではなかった。
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