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午後9時になったので、瀬谷さんに蕎麦を打ちにレイチェル邸に行くことを告げると、彼は興味を示した。
「僕も行こう」
「はい?」
「だめかな?」
「いえ、大丈夫だと思いますけど」
「じゃあ、行こう」
彼はすごく乗り気だった。
楽しそうな人を見て悪い気がするはずがない。
私も急に楽しくなってきた。
レイチェル邸に行くと、まずはさゆりさんが迎えてくれて、後ろに立っていた瀬谷さんに驚いた。
次に厨房でマスターが迎えてくれてやっぱり瀬谷さんに驚いた。
でも、二人とも驚きながらも喜んでくれているようだった。
まあ、自分のアパートの住人だし。
まずは私が打ちはじめた。
しばらくすると、瀬谷さんが「そこはそうじゃない」とか「もっとこねて」とか言い始めて、そして「どきなさい」の一言で打ち手は変わった。
(う~ん、私が言い出しっぺなのに、これでいいのか?)
と思いつつも、真剣に蕎麦を打っている瀬谷さんはかっこよかった。
マスター達もその手つきに感心していた。
結局、瀬谷さんは、納得できないと2回打ち直し、4人で食べる量を遥かに超えてしまったのでマスターが打つことはなかった。
「せっかくだ。ここでみんなで食べよう」とマスターが言ったら、瀬谷さんも「打ち立てが美味しいんだ」と話に乗って、その場で食べることになった。
とりあえず、瀬谷さんが席を立った時に、マスターとさゆりさんには『仕事の話』は絶対にしないようにと、きつく言いつけた。
彼らはそれを守ってくれたので、楽しい大晦日を過ごすことができた。
もちろん、瀬谷さんの打った蕎麦は、マスターを唸らせるほどの美味しさだった。
これで、まだ会得してないとは……
う~ん。
テレビが新年を告げたと同時に挨拶をした時には、みんなで炬燵に入って紅白を見てミカンを食べていた。
思えば不思議な光景だ。
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