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「あ、すまない。寒いな。帰ろうか」
「いえ、もう少し見ていたいです。だめですか?」
私はまだこの時間を続けたかった。
「ああ、かまわないよ」
彼はちょっとうれしそうに言った。
「じゃあ、僕のコートのポケットに手を入れなさい」
彼のコートは大きめのダウンのコートだ。
「え?」
私がきょとんとしていると、彼が私の右手を取ってコートの左のポケットに入れさせた。
瀬谷さんがこんなことをするとは思えなかったので驚いた。
でも、彼は普通の表情をして夜景をみていた。
どうやら必然でしたことで、彼には照れるようなことじゃないらしい。
「先生、左手も寒いです。こうしましょ」
私は彼が前を留めてないのを見て思いついた。
彼の前に立って彼のコートの中に入り、両手を内側のポケットに入れて前にたぐり寄せた。
背中に彼がくっついていて抱きしめられる感じになった。
彼の頭が私のすぐ上にある。
「たか子君……」
さすがに彼も戸惑っているようだ。
でも、気にせずに私は言った。
「暖か~い!」
「そ、そうか」
そう言われて彼は断れないみたいで、仕方なく、自分の手もポケットに入れてきた。
リバーシブルなのか、内側と外側のポケットは中で繋がっていた。
今度は少し照れているのがわかる。
手が触れた瞬間心臓が高鳴ったが、私から彼の手を握った。
こんなことができる自分自身への驚きと、私の心臓の鼓動が聞こえてしまわないかという戸惑いがあったが、相手が瀬谷さんなので気にしないようにした。
まだ会って1週間しか経たない彼とこんなことしてていいのか、自分自身よくわからないが、今はすごく暖かい気持ちで満たされていた。
ずっとこうしていたいと思うくらいに。
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