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山の上は少し台地状になっている。
意外と全体的に木が茂っている感じで、見晴らしがよくない。
でも、店のあるホテルは、その台地の端にあり、目の前を遮るものがないので、素晴らしい夜景が広がる。
店自体は、ホテルから一段下がったところに別棟で建っていた。
ホテルの経営者は別だそうだ。
いわゆるテナントとして入っているということだろう。
店の前にも駐車場があり、広瀬さんはそこに車を停めた。
降りようとするとやっぱり外からドアを開けてくれた。
(慣れなきゃ、慣れなきゃ)
店の方を見ると建物の周りが明るく光っている。
その向こうにある夜景が想像できる。
店の入り口は海辺の店と同じだった。
小さな木の看板に「広瀬」と彫られている。
ドアに近づくとスッと向こうに開いた。
「いらっしゃいませ、桐渕様」
ドアの向こうにドアマンが立っていた。
「どうぞ」
広瀬さんに勧められて中に入る。
(名前を呼ばれた……)
そんな扱いに一人でどきどきしていた。
エントランスから見下ろすと、いきなり目の前に夜景が広がり息を飲んだ。
街の方向と左右はほとんど壁が無く、全てガラス張りだった。
2つのフロアが階段状になっており、どのテーブルからも素晴らしい夜景が見えるようだ。
「すごい……」
私は光の波に目を奪われて、立ちつくした。
「でしょう。ここに来るお客はみんなこのエントランスで息を飲むんだ。どうぞ、こちらへ。席からでも見えるから」
広瀬さんに促され、一番下の角の席に座る。
右から左まで夜景が視界を占める。
特等席だ。
私はずっとその夜景に目を奪われ続けた。
気が付くと、広瀬さんが私を見ていた。
「あ、すみません。つい……」
「いや。料理は既に用意させてもらっているから、心ゆくまで見てていいよ」
「ありがとうございます。この街の夜景は大好きなんです」
「うん。紀子さんから聞いてる」
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