第5章 天空のレストラン

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「あ、そうだ。私のこといろいろ聞いているんでしょう?」 私は広瀬さんに向き直って聞いた。 「まあね。それで、君のことがすごく気になって紹介してもらったんだ」 「そうだったんですか」 とりあえず、彼が告白してくれたので、秘密にする必要はなくなった。 「でも、どんな風に聞いているのか気になりますけどね」 「変なことは聞いてないよ。君を紹介して欲しいと思ったくらいだから」 「変なところを気に入られたかもしれないでしょ?」 「ん?何か変な趣味があるのかな?」 広瀬さんはにこっとして聞いてきた。 「あ、いえ。ありません。……多分」 彼の優しいつっこみにいつもの自分の性格を反省。 ここはとりあえず良しとしよう。 「では、うちの自慢の料理を食べてもらえるかな?」 彼がそう言ってちょっと手を挙げると、すぐに壁際にいたウェイターが一礼して奥に入っていった。 さっきのドアマンといい、よく教育されている動きだ。 彼は運転があるからとお酒は飲まなかったが、私には勧めてくれた。 でも、広瀬さんが飲まないのに、私だけ飲めないと断った。 彼はそれを聞いて感心するように微笑んだ。 その後は、海辺の店で食べたのとはまた違った料理が出てきて、その美味しさを堪能した。 ローストビーフの時は聞かれもせずに「厚め」で出てきた。 前回のデータが生きているのだろうか…… ちょっと恥ずかしいぞ。 でも、本当は食べたいのに、あえて聞かれていたら「薄め」と答えただろう…… やっぱりこれは正解だろうかとつまらないことをあれこれ考えてしまった。 食後のデザートの時は珈琲ではなくカフェラテだった。 紀子さんに聞いたのはわかるが、こんなことまでちゃんと頭に入っているらしい。 こんなに気を使って疲れないのかなと、こちらが心配してしまう。 ふと、こういう時八代なら遠慮せずに大喜びなんだろうと思った。 (どうして素直に喜べないのかな……) 自分の性格がうらめしかった。 世のオンナ達が「タイプの男性は?」と聞かれ、「やさしいひと」と答えるのをテレビとかでよく目にするが、そのやさしい男性が目の前にいて、私はふと考えてしまう。 (私の好みのタイプって「やさしいひと」じゃ…ないの?)  
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