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その夜、瀬谷さんが帰ってきた気配がしてから、部屋を訪ねた。
ドアを開けてくれた瀬谷さんは部屋へどうぞと促したが、気が引けてとりあえず戸口で話した。
「えっと、昨日はご迷惑をおかけしたみたいで……」
「ん?何がだ?」
瀬谷さんはきょとんとしている。
(あれ?)
「……もしかして覚えてないのか?」
「はい……すみません。飲み過ぎました」
「別に飲んで話して、君は零時頃、自分で部屋に帰っていっただけだが」
「そうなんですか?」
彼は別に気にしている様子はなかった。
「私はてっきりご迷惑をおかけしたと思って」
「まあ、寒いだろう。入りなさい。カフェラテでも淹れよう」
彼に再度促されて今度は部屋へ入った。
「僕は、不思議なことに、君のことを迷惑だと思ったことはない」
瀬谷さんはこちらに背を向けて、カフェラテを淹れながら言った。
「でも、私、よく考えたら随分先生に甘えてしまってる気がして」
「いいじゃないか。僕が迷惑に思っていないし、君は実に面白い娘だと思う」
「はい?」
「ある意味、たか子君は僕にとってペットみたいなものかな?」
「はあ?」
「気が付くと傍にいるし、たまにきゃんきゃんと吠える感じだし、そして、カフェラテを出すと満面の笑顔になる。そうだな。まるで犬を飼っているようだ。僕はこれでも楽しんでいるんだよ」
バッタン!
背を向けたままカフェラテを淹れている瀬谷さんをほっといて、私は思いっきり彼の部屋のドアを閉めて自分の部屋へ戻った。
(なんなの!信じらんない!人のことを、言うに事欠いてペット?犬?何それ!失礼しちゃう!)
私は部屋に戻るとベッドに飛び乗って枕を瀬谷さんの部屋側の壁に投げつけたりして、しばらく憤慨していた。
枕がそれて落ちたので今度はクッションを投げつけるとまっすぐ戻ってきて顔に当たった。
「痛ったあ……もう何やってるんだろう私」
顔をさすりながら壁を見ると、クッションが当たってカレンダーが揺れていた。
その写真の小さな女の子がこっちを見て笑っている。
ちょっと落ち着いてきた。
(いくらなんでもペットってひどいよね……)
でも、カフェラテを淹れてくれる時、心の中で「わん!」って思っていたのは確かだなと思うと、なんだか少しおかしくなってきた。
(なんで私こんなに怒ってるんだろう?)
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