第6章 佐登美がやってきた

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1月も終わりの頃、2階のブティックの移転が完了し、紀子さんの画廊の話が動き出した。 「ちょっと設計事務所に顔出してくるね」 最後の私がお昼を終えて戻ってきた午後3時過ぎ、紀子さんは、そう言いながらコートを羽織った。 「はい。任せてください」 佐登美が答える。 「二人ともよろしくぅ~」 紀子さんは手をひらひらさせながら出掛けていった。 佐登美は派遣会社を辞め、1週間前からle vantの店員となった。 派遣時代、販売系もこなしていたので仕事に慣れるまで2日とかからなかった。 帳簿も扱えるので、どちらが店長かわからないくらいだ。 まあ、まだ精油の知識は私にはかなわないので、安心だが。 既に打診はしていたが、1月の中頃、ブティックの移転日が決まるとあらためてどうするか尋ねた。 佐登美は「明日、店に顔出すね」と言った。 そして、翌日のお昼前、店にやって来てこう言った。 「会社辞めてきました。よろしくお願いします」 紀子さんはその対応の速さが気に入って「よし、給料1.5倍!」と言い出す始末だった。 「あの、それじゃ、私とほとんど同じじゃ……」 私が言うと、紀子さんはこちらに向き直ってこう言った。 「よし、いい友達連れてきたから、たか子ちゃんも給料アップ!」 (わん!佐登美ありがとー) 持つべきものは友である。 「ということで、売り上げも2倍だね!」 さらに続けられた紀子さんの台詞に、冗談だと知りつつも、私たちはこそこそと逃げ出した。  
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