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光の奔流。それが目の前の扉から漏れ出していた。
儀式に伴う、膨大な魔力。それが意志を伴って暴走を始めているかの様であった。
決行された儀式。
扉が閉ざされ、しばらくした後の異変。
……儀式は失敗した。
必死で姉の名を呼ぶ声。それが自分の喉から発しているものだということに、しばらくして気づく。
そして。光が弾けた。
気が付くと。自分は城の外に居た。
何百年もかけて風化されたように、城は変わり果てた容貌を見せていた。
……いや、本当に何百年も経っている様だった。まるで、自分が未来へ飛ばされたかのよう。
儀式はどうなったのか。皆は?――姉は?
そう考えた時、全てを悟ってしまった。誰も居ない。この城に、生きている者が誰も居ない。
……彼女も、もうこの世界に存在しない。
だのに。何の感情も湧いてこない。身を引き裂くほどの哀惜も。自分を跪かせるほどの寂寥も。微塵も生じない。その事実に対しても、自分は何の感情も抱かない。
あの声も。あの姿も。あの笑顔も何もかもが戻らないというのに。
やがて彼は立ち上がり、そして歩き出した。
目的は無かった。目指す場所も無かった。
ただ何も残っていないこの世界で、彷徨うのみ。
そうして彼は歩き続けた。
一人の女性との想い出を抱えながら。
もう二度とは還らないものを求めて。
The Chronicle of Noln
~黄昏の廃都~
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