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「儀式の失敗によってほとんどの者は死んでしまい、わずかに生き残った者達は儀式の完遂を目指して、今でもこの世界の何処かで暮らしているんだとか。めでたし、めでたし」
街の宿屋の一階。女の子と、その子より幾分か大きい少年が居る。
受付カウンターの前にある椅子に、彼らは隣りあわせで座っている。
おとぎ話を語り終えた少年は、椅子の背もたれに身を預けた。そんな彼に、今まで話を聞いて目を輝かせていた女の子が質問を投げかける。
「ねぇ。そのノルンの人たちは今でも何処かに居るの?」
「ああ、そのはずだよ。今でも生き残っている人たちは少ないけれど……確実にこの世界に存在する。そして一族の悲願を果たそうとしているんだ」
彼は自分に言い聞かせるかのように、そう答えた。
――この世界に生きる者ならば、必ず聴かされる有名なおとぎ話。彼は彼女にせがまれ、それを語っていた。
少年が応えると、女の子は眼を伏せてこう問いかけた。
「ねぇ、お兄ちゃん。私は一生、魔法が使えないの……? そのノルンの人たちが儀式を終わらせれば、私は馬鹿にされなくて済むの……?」
少女は幼かった。彼女くらいの年齢ならば、魔法が使えなくてもおかしくはない。
だが。
少女は魔法が使えない。
技術の問題ではない。魔法の使用の可、不可は純粋な遺伝によって決まる。だから、彼女の様な魔法が使えない者……『アンテソーサリー』は、いくら修練を積んでも魔法の大元、魔力を持ち得ることは決してない。
……生まれ持って魔力を持たない者は、一生魔法が使えない。
アンテソーサリーは、昔ほどではないとはいえ、大抵の場合差別や迫害を受ける。
彼女が耐えている辛苦。それを想う。
だから彼女にかける言葉を。彼女にとって優しい言葉を。彼は選んだ。
「ああ。儀式を終わらせれば、キミみたいに魔法が使えなくて悲しむ子は居なくなるよ……。みんな、おんなじになるから」
彼の言葉に、少女は微笑んだ。
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