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ステアリングと、シフトノブと、アクセルにブレーキ。
両手両足をフルに動かして複数の操作をすれば、派手なスリップ音を響かせて車は強引に軌道を変えた。
頭で考えるよりも先に身体が動いているのには、我ながら感心するところだ。
───あーぁ。後ろの奴に突っ込まれるかもなぁ──…。
なんて、暢気に考えながらも歩行者をドリフトで回避して、車は動きを止めた。
後ろからの衝撃を覚悟していた俺だったが……。
それはいつまで待っても訪れなかった。
それまでの進行方向とは逆を向いて停車したのを確認した俺の視界に、同じ様に反対を向いて停まっている国産スポーツカーを認め、長い溜め息を吐いた。
───まったくさぁ。
飛び出してきた歩行者轢いても車が悪いなんて、不公平だ!
ついついそんな事を考えながらも、俺は路上に座り込んでしまった歩行者の元に向かった。
「大丈夫?」
ジーンズを穿いた小柄な女の子の傍らに屈んで、なるべく相手を刺激しないように話し掛ける。
俺の声に立ち上がった彼女は、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい!
わたし、急に飛び出したりして……」
「え?あ、いや。
俺の方こそゴメン。ビックリさせたよな」
間の抜けた声で謝り返してみたものの、俺の意識は目の前の彼女にはなかった。
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