【プロローグ】

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彼女との会話を心ここに在らずといった感じで早々に切り上げて、俺はシルビアの隣に停車した黒い車体に足を向けた。 ───あの状況でカマ掘らないなんて、一体どんな奴だ? まさか、女ってことはないよな……? 女だったら嬉しいけど……。 まさか回避できるとは思っていなかった。 悪くすれば人身事故。 良くても追突くらいはされると思っていたのだ。 なのに……。 最善の形で裏切られた予想に、ぞわぞわと全身に鳥肌が立った。 突如現れたプロ並みのドラテクの持ち主に俺が抱いた感情は、尊敬と嫉妬。 足早に近付いた俺の目の前で、微かな機械音を響かせてサイドの窓が下ろされる。 運転席に座っている人物が顔を覗かせた。 高い鼻梁と堅く引き結ばれた唇は、まるで美術館にある彫刻を思わせる。 それは、硬質で冷たそうな印象を俺に与えた。 常に実年齢よりも幼く見られる俺とは正反対の、完成された大人の男だ。 ───うわぁ……。 めちゃくちゃ格好いいんですけど……。 ハリウッドスターだと言っても通用するだろう端正な顔立ちと深い色を湛えた瞳は、同性の俺でさえ見惚れてしまう。
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