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「ハザード、助かった」
唐突に言われた言葉の意味を理解できず、情けなくも呆けた表情で見つめる俺に、相手は丁寧にも言い直してくれた。
「ハザード。俺に知らせる為に点けてくれたんだろう?」
「あ……。うん」
整いすぎた顔に真っ正面から見据えられて、俺は思わず照れてしまう。
それにしても、いくらハザードが点けられたとはいえ、あんなに急な事態に対処できるものだろうか。
どちらにせよ、俺の目の前にいる男の運転技術は相当なものだろう。
「俺も、おにーサンが運転巧くて助かったよ。
追突くらいはされると思ってたからさ」
正直に告げた俺に、男は一瞬だけ形のいい眉を片方だけ器用に吊り上げた。
それから、嬉しそうに微笑んだ。
整いすぎた顔立ちのせいで冷たそうに見えた男の表情も、笑顔は優しそうだ。
「あのさ。よかったら今度、一緒にサーキットにでも行かない?」
せっかく知り合ったのだからと半ば強引に誘ったら、下手なナンパ小僧のような台詞になってしまった。
「あっ。でも、無理にとは言わないし……」
「構わない」
「……え…?」
変に誤解されやしないかと慌てていた俺は、言葉尻に被せられた返事を聞き逃す。
またしても素っ頓狂な声を上げてしまう俺は、悲しいかな相当間抜けな人間に思われていることだろう。
だけど、突発的に言われたら、誰だって聞き返すに決まってる……よな…?
「構わないと言ったんだ」
「マジでっ?」
あまり良い返事を期待していなかっただけに、ついつい喜んでしまう、単純な俺。
「俺、水瀬透哉。
統稜大の二年なんだけど、おにーサンは?」
「東雲燎臥」
「しののめ……りょうが……?」
「ああ。珍しい名前だろ?」
「いや、格好いいと思う。
燎臥サンは、何してる人?学生?」
「学生に見えるか?」
「……見えない…」
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