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「…………」
その少女は、白銀色の髪をなびかせて、俺達を見つめたまま、何も言わない。
「…君は、一体?」
俺はそう言うと同時に、強烈な既視感に襲われた。
彼女の姿は、腰まで届く白銀の髪に、白いワンピースを着て、言い方は悪いが、どこか幽霊の様な希薄さがある。
そして、彼女の目は、闇夜に浮かぶ月の様に白く―本当に白く輝いていた。
「…くっ!?」
「狩谷!?」
彼女の目を見た途端、俺の脳に直接響く様な頭痛が襲い、俺はその場に膝をついた。
久藤が、その様子を見て、慌てて俺の横に駆け寄って来る。
「…………」
彼女は何も言わず、視線だけを俺の方にずらす。
俺は彼女の目、そして容姿を、もう一度見てみると、今度は既視感など曖昧なものではなく、全く対照的な筈なのに、俺の口からある女の名前が出てきた。
「……絵理?」
「……は?」
俺の言葉に久藤は、俺と彼女の顔を何度も見返した。
「…………!!」
彼女は、俺の言葉を聞くと、初めて表情を変化させた。
無言のまま、何かを言いたげに驚きの表情を浮かべて。
「…………」
俺は、彼女の様に黙って見つめ返す。何故かは分からないが、彼女の言いたい事が、分かった様な気がした。
「…何があったんだ?」
「…狩谷、どうした?この子は絵理ちゃんじゃねぇぞ。」
そんな事は分かっている。彼女は、絵理であって絵理でない。
そんな矛盾した現象を、容易く俺の脳は受け入れていた。
「…………」
彼女は、何かを言いたげな目で必死にこちらを見ている。
「…なんなんだ?」
久藤も彼女の視線に気付いたのか、どこか苛立ちを覚える声で呟いた。
その時だっただろうか。
俺と久藤、二人を取り巻く状況に、彼女以外の奇妙な違和感を覚えたのは。
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