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火柱が収まった後、エリの姿はもう其所には無かった。
「…拍子抜けだな。能力を全く使わずに消えてしまうとは…」
「……!!」
俺は、込み上げてくる衝動を抑え、突如表れた男を睨む。
相手が常識外れな力を持っている可能性が高いので、下手に近づくと危険だからだ。
本当なら、いますぐにでもあの男を殴って、気を晴らしたいのだが…幸いに俺の脳は、冷静に状況を把握出来ていた。
「…!あの馬鹿っ!!」
…そうだった。奴を先に止めるべきだった。
こんな状況下でも、無謀に突進する様な奴を、俺は一人知っていたのに…。
「ウオオオオッ!!」
…久藤だ。
何をしでかすか分からん奴に、久藤は無謀にも、殴りかかろうとしていた。
「…遅い!」
しかし相手は、久藤が来る事を分かっていたかの様に体を回転させ、久藤の顔面に回し蹴りを叩き付けた。
…なんだ、この常軌を逸した戦いは。もはや喧嘩のレベルでは済まない…ん?
あの男はともかく、久藤はどうして一瞬であんな所まで移動出来たんだ?ご丁寧に後ろに回り込んでまで。
「くっ…!」
吹き飛ばされた久藤が、上手い具合に俺の方へと飛んで来る。
「…お前達も、力に目覚めた者か。ならば、私と戦え!!」
男は、そう言うと両手を俺達の方に向けた。
「ハアアアア!!」
叫びと同時に、男の両手から、炎が放出された。
「…くそ!何なんだ一体!?」
「ゴタクはいいから、さっさと避けろ、狩谷!!」
「ウオッ!?」
久藤に引っ張られた俺は、間一髪の差で炎を回避した。
…やはりおかしい。久藤の身体能力に異変が起こったとしか思えんな、こりゃ…。
元より俺と同じ様に身体能力は高かったが…先程の力や速さは人間業じゃあ不可能だ。
「何やってんだ!」
そんな事を考えていると、ふと久藤の声が聞こえ、俺はもう一度、強い力で引っ張られた。
あの…結構痛いんですけどね、急に引っ張られるの。
俺がいた位置に、再び火炎放射が轟音を上げて通り過ぎる。
「…………」
…俺は、額に流れる汗を拭う暇もなく、焦げたズボンを見て、これは現実という事を、嫌でも思い知らされた。
「馬鹿野郎!死にたいのか!?」
「…んな訳あるか。それより、お前一体、どうしたんだ?」
俺はそう言うと、先程から驚異の身体能力を発揮する、久藤の目を見た。…もとい、見てしまったという方が正しいだろう。
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