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…読んでくれている人達には悪いが、此処でもう一つ過去話をさせていただく。
過去話といっても、今日の昼休みの頃の話だ。安心してくれ。
何が安心なのか、という突っ込みは、断固無視させてもらう。
理由は至極簡単だ。
その理由の答えが俺に用意されておらず、また、それを上手く誤魔化せる程の弁を持ち合わせていないからだ。
…はい、という訳で、有無を言わさず回想スタート。
俺が、久藤と一緒に練習試合に行ったあの日の、昼休みの話。
俺は学生食堂で売られていた、学食特有の、チープな味付けがされた焼きそばパンを購入し、それを教室で食っていた。
そして、五分も経たずに完食した俺は、五時間目に確実に襲来する睡魔を迎えうつ為に、一時の休息期間に入ろうと、机に突っ伏した。
「…ねぇ、狩谷」
俺の視界がフェードアウトする五秒前、俺の右耳から女の声が入ってきた。
「…何か用か、絵理」
俺は、赤い帽子と髭がトレードマークのオッサンを操作するゲームで、最後の巨大な亀を倒す直前で親にコンセントを抜かれた時の子供の様な顔をして、話しかけてきた女に尋ねた。
「あ、ゴメン。何かタイミング悪かったみたいだね」
不機嫌な顔を見せた俺に対し、苦笑しながら謝った女の名前は芹沢絵理(セリザワ エリ)という。
絵理は、俗にいう俺の幼なじみで、久藤よりも遥かに付き合いは長い。
…確か、幼稚園から一緒だった様な気がするから、もう十年を超える。
絵里は、幼い頃から明るい性格で、クラスに笑顔を振り撒く、まぁ、ありがちな呼び名で悪いが、クラスの人気者だ。
「ねぇ、悪いけど、五時間目の英語の和訳、出来てる?」
絵理の言いたい事を、五時間目の…辺りで理解した俺は、机の横に架けている鞄からノートを取り出し、投げ渡す。
「サンキュ!」
絵理は、実に簡単な感謝の言葉と、満面の笑顔を俺に向けて、速攻で自分のノートに模写をし始めた。
…言ってて恥ずかしくなるが、絵理の笑顔は実に良く似合い、もう幾度となく、笑顔を見てきたが、決して飽きはしない。
絵里は学年で隠れファンが多いらしいと、風の噂で聞いた事があったので、今俺が絵里と維持しているこの状況は、悪い気がしないな。
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