プロローグ

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「人は少なからず悪を行います。しかし善と悪の均衡がとれていれば問題はないのです。先導者は比較的善い要素が多い者を俗に言う天国に連れていきます。その逆に執行者は悪が多い者を地獄に連れていきます。そしてここからが重要なのですが、救済者は悪だが、救いようがないわけではない者に心から懺悔をさせ、天国に連れていくのです」 少女は今まで何度も説明してきたのか、淡々と説明した。 「…よくわからないのですが」 青年は両肘を膝の上に乗せ、前屈みになって尋ねる。 「これは非常に難しい問題です。救済者の対象者は死期の近い人間です。しかしあなたはそれを対象者に知られることなく心から懺悔させなくてはならない」 「なぜ知られてはならないのですか?」 少女はマニュアルを読むように答える。 その義務的な口調とはうってかわって、少女の顔には僅かな笑みが浮かんでいる。 青年は少女に何かを超越したようなものを感じた。 神もあながち嘘ではないな。 青年はそんなことを思っていた。
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