第一章 不発のカイネ

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 すっかり夜も更けたある満月の晩。  カイネ・バレンスタシアは、魔術学院の所有する広大な広場の中央でただ独り、黙々と何かを呟いていた。  大きな瑠璃色の瞳をらんらんと輝かせ、地面に触る程長いゆるやかなウェーブヘアを金色にはためかせながら、彼女は両手を天に振りかざしていた。 「深淵に潜む愚者共よ聞け。我の甘美にして神聖なる言霊に狂喜乱舞し平伏すがいい──」  そして、カイネは自らが徹夜で作りあげた詠唱律を、途切れることなくすらすらと並べていく。 カイネのすぐ足元には人間が4、5人は楽に納まるだろう巨大な魔法円が描かれ、彼女の言葉に共鳴し、青白く発光している。 魔法円。 それはチョークやペン、または血液などで円を描き、その中に星や多角形といった、魔術的意味をもつ図形を描き出したもの。 魔法円にはヘキサグラムやペンタグラムなど、様々な種類がありそのそれぞれが魔術儀式において、重要な意味を成す。 そして、カイネの目の前に描かれている魔法円もまた、ある魔術儀式において必須とされるもので、つまりカイネはある儀式の最中だった。
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