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カイネの額に汗がにじみ、髪が額に張り付く。
夜という時間帯からして外気はとりわけ暑いという訳ではなく、むしろ肌寒いぐらいだったが、それでも汗がたらたらと頬を伝う。
それは、緊張と魔力消費からくる疲労の結果。
カイネはそれをうっとうしそうに左手で左右に流しながら、右手に掲げた杖により力を込める。
静寂と闇のみが支配する寝静まった世界。
カイネの頭上では、満月がその闇に抵抗でもするように、ぼんやりと世界を照らしている。
やがてその満月が、よりいっそう輝きを増した、気がした。
時が、満ちたらしい。
「我こそは、いつかきっとそのうち…………。
っていうか絶対絶対絶っっっ対!史上最強のソーサラーになる者なり!
だから、後悔しない内に私の元へ来い!」
さあ、来なさい!
最後にいろいろと雑念が混じった為、詠唱律が乱れに乱れたが、構わず杖を魔法円に振り下ろした。
刹那。
魔法円が溢れんばかりに光を放出する。
天まで昇るかと思われるその柱状の青白い光は、夜の闇を裂き、周りを激しく照らし出す。
それは、カイネの魔力が作りあげた生命の光。彼女の魔力そのもの。
カイネはその輝きの眩しさにたまらず手で目を覆いながら、ちらと魔法円を見る。
そして、頬が緩んだ。
見ると魔法円全体が黒く塗りつぶされ、まるでそこに、円形の落とし穴でもあるかのよう。
さすが私。バッチリだわ。
それを見たカイネは、心の中で小さくガッツポーズをする。
まずは第一段階成功。
『扉』が、開いた。
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