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「え!?な、何か問題でもっ…」
ーーまさか、急に雇えなくなったと言うんじゃーー…。
亜紀乃の顔色に気づき、律子は慌てて両手を左右に振った。
「あ、違う違う。ちゃんと仕事はあるから大丈夫よ」
「お、おばさん…脅かさないで~…」
「ごめんね。ただその、すごく言いにくいんだけど、店番と半々であきちゃんにちょっとお願いしたい仕事があって…」
「何ですか?私、何でもやりますよ!」
仕事と聞いて、亜紀乃は胸を張って強く答えた。
そんな彼女を見てまた微笑みながら、 だがやはり言いにくそうに、律子は眉間のシワを深くした。
「…それがね…」
「うん」
「…ウチのどうしようもないバカ息子、監督して欲しいのよ」
「…………は?」
たっぷり、3秒。
一瞬言われた意味が飲み込めず、亜紀乃はありったけ間抜けな声をあげた。
その反応に間髪入れず、堰を切ったように律子が、
「もう本当に!あれはどうっしようもない悪ガキで手が付けられないのよ!ああもうっ、あの我が儘さといい、傍若無人さといい、絶対お父さんに似たのね!学校の先生の話どころか、私の話も右から左に受け流すんだから!」
「お、おばさん…」
「しかも今年は大学受験だってのに、通知表なんて1か2しかないのよ!どこまでバカなんだか」
散々まくし立てて、律子はガバッと亜紀乃の手を掴み、握りしめた。
「あきちゃん、お願い。あの子の勉強みっちり見てやって。でもって、私が居ないときにも時々監視して欲しいの。今年だけ一年間だけ、お願い!」
「え、ええ!?っていうか、わ、私そんな頭良くないし!」
「何言ってんの。国立医学部入ってりゃ十分よ」
「そ、それは…でも結局中退しちゃったから」
「関係ないわよ。入るまでが大変なんだから。それにこう言っちゃなんだけど、余所に頼むとすごく高いでしょ?親としては厳しいとこなのよね」
はあ、と律子が大きなため息をついた。
「ね。無理ないよう、負担軽くするから。駄目?」
そんなに言われたら、NOと言えない典型的日本人の亜紀乃が首を横に振れる訳がない。
「うーーうん」
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